新型コロナウイルス感染症関連の資金繰り支援策のうち、民間金融機関(銀行や信用金庫)による実質無利子の融資制度(新型コロナウイルス感染症対応資金)について解説しました。制度の背景となる信用保証付き融資やセーフティネット保証制度のポイントも。
民間金融機関による実質無利子の融資について
5月1日から、民間金融機関(銀行や信用金庫)による当初3年間・融資額3000万円(※その後4,000万円に拡大)まで実質無利子となる融資制度が始まりました。名称は都道府県によって異なります。「新型コロナウイルス感染症対応資金」という言葉が使われている場合が多いです。
ポイントは、
- 当初3年間は融資額4,000万円までは実質無利子になる
- 信用保証料の減免がある
- 据置期間が最大5年ある
- 信用保証付き融資の既往債務を今回の制度に借換できる場合がある
などです。
この融資には、「制度融資」と呼ばれる仕組みが使われています。制度融資とは、民間金融機関・信用保証協会・都道府県や市区町村が連携して行う中小企業や個人事業主向け融資のことです。
平常時からある制度ですが、国がバックアップすることでこれまでより強力な融資制度になりました。
それぞれの役割を整理すると下記の表の通りです。
民間金融機関 | 事業者に融資をします。また、この制度を使いたい事業者の窓口となり、市区町村のセーフティネット保証制度の認定や都道府県への必要書類の提出などをサポートします。 |
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信用保証協会 | 公的な保証人として民間金融機関が融資しやすくします。 |
都道府県 | 利子を3年間代わり支払うことで事業者の負担を軽くします。 |
市区町村 | 「セーフティネット保証4号」「セーフティネット保証5号」「危機関連保証」の認定を行います。 |
なぜ民間金融機関が無利子の融資ができるのか?
民間金融機関は、事業者にお金を貸したときに受け取る利息が利益になります。では、どうして無利子の融資ができるのでしょうか?答えは、都道府県が事業者の代わりに利子を負担するからです。これを利子補給といいます。
ただし、利子補給の期間は当初3年間です。4年目からは利子の支払いがはじまります。4年目からの利率は都道府県によって異なります。概ね1.4~2.0%くらいが目安です。
なぜ民間金融機関が業績不振の事業者に融資できるのか?
今回の制度は新型コロナの影響で売上が減少している事業者の資金繰りを支援するものです。しかし、一般的に民間金融機関は業績不振の事業者には融資したくありません。なぜ今回は融資できるのでしょうか?答えは、国のセーフティネット保証制度により、万が一返済が滞ったときは信用保証協会が民間金融機関に立て替えて返済してくれるからです。
平常時でも同様の仕組みの融資は行われているのですが、新型コロナの影響がとても大きいので保証割合などが強力になったセーフティネット保証制度が次々に発動されています。そのため、民間金融機関は厳しい状況の事業者にも融資しやすくなります。
※セーフティネット保証制度があるから、どんな事業者でも融資を受けられるわけではありません。信用保証協会と民間金融機関による審査はこれまで通りあります。
既往債務の借換のメリットはなにか?
現在、民間金融機関から信用保証付き融資の既往債務があるときは、新規の融資を受けるときに今回の融資条件への借換ができる場合があります。
もちろん新規の融資を受けると負債の総額は増えますが、既往債務分も3年間は実質無利子や据置の対象になることで資金繰りが楽になるメリットがあります。借換についても取引金融機関に相談してください。※既往債務の借換分も含めて4,000万円です。
実質無利子などの要件は何か?
今回の制度は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者の資金繰りを支援することが目的なので、誰でも対象になるわけではありません。国のセーフティネット保証制度の認定を受けることが要件になります。要件や制度の概要をまとめたものが下記の表です。
個人事業主(小規模のみ) | 個人事業主(小規模以外)・法人 | |
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前提 |
市区町村長よりセーフティネット保証4号(売上20%減)・セーフティネット保証5号(売上5%減)・危機関連保証(売上15%減)のいずれかの認定を受けていること セーフティネット保証制度の要件を満たすか確認できる計算フォームはこちら |
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利子補給 |
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信用保証料補助 |
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融資上限 | 4,000万円 | |
担保 | 不要 | |
最初の相談先 | 取引のある金融機関。 |
【要するに】実質無利子・信用保証料ゼロのパターン
セーフティネット保証制度でみると少しわかりにくいですが、
- 小規模な個人事業主は売上5%以上減少
- 小規模以外の個人事業主と法人は売上15%以上減少
で当初3年間は融資額4,000万円まで実質無利子になり、融資を受けるときの信用保証料もゼロになるということです。
【補足】個人事業主の小規模事業者の定義
常時使用する従業員数が20人(商業・サービス業は5人)以下の場合は小規模事業者になります。売上規模などは関係ありません。
【補足】セーフティネット保証制度の認定は形式的
セーフティネット保証制度は市区町村長が認定することになっています。売上減少要件を満たしているかを主に確認されます。市区町村が融資にかかわる審査をするわけではありません。売上減少要件を満たしていて必要書類に不備がなければ認定されます。民間金融機関によっては認定の書類準備のサポートをしてくれます。
【補足】都道府県ごとに異なること
利率と信用保証料は都道府県ごとに異なります。つまり、実質無利子の期間が終わる4年目以降の利率と、小規模以外の個人事業主と法人のセーフティネット保証5号の認定を受けて支払う信用保証料は都道府県によって異なるということです。都道府県ごとの融資条件は下記より確認です。
北海道・東北
関東・甲信越
東海・北陸
近畿
中国
四国
九州・沖縄
どこに相談すればいいのか?
最初に取引のある金融機関に相談してください。今回の制度により民間の金融機関もこれまで以上に相談が増えると思います。早めの行動をおすすめします。多くの金融機関では、土日祝日も含めて相談窓口が開設されています。※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、最初から窓口に行くのは止めましょう。まず、取引のある支店か金融機関ごとに設けられた相談ダイヤルに電話で連絡してください。直接訪問するのは、金融機関に求められてからにしてください。
信用保証付き融資ってなに?
まず信用保証協会は、中小企業者の金融円滑化のために設立された公的機関です。簡単に言えば、信用保証協会には中小企業や個人事業主が民間の金融機関(銀行や信用金庫)からお金を借りやすいように公的な保証人になる役割があります。
このように信用保証協会が保証人になって、民間の金融機関が融資することを信用保証付き融資といいます。信用保証付き融資自体は、今のような緊急事態ではなくても「一般保証」の枠があって、中小企業が民間金融機関から融資を受けるときに普通に使われています。
新型コロナ関連の信用保証付き融資のメリット
新型コロナウイルス感染症に関連して「セーフティネット保証4号」「セーフティネット保証5号」「危機関連保証」というセーフティネット保証制度が次々に発動されました。
これらのセーフティネット保証制度の最大のメリットは、信用保証協会が保証割合を高めることで民間の金融機関はお金を貸しやすくなり、事業者はお金を借りやすくなることです。
保証割合とは、事業者が返済できなくなったときに信用保証協会が立て替えて返済する割合のことです。信用保証協会は保証人になるといっても、一般保証の保証割合は80%なので金融機関は20%分の貸し倒れリスクがあります。ところが、セーフティネット保証制度のうち「セーフティネット保証4号」と「危機関連保証」では保証割合が100%になります。
これにより、新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少している(=積極的に融資しにくい)事業者にも金融機関は融資しやすくなります。(※事業者ごとに審査があります。保証割合が100%だから金融機関が必ず融資するわけではありません)
他にも、信用保証協会が保証する額の上限(保証枠といいます)が増えるメリットもあります。保証枠のイメージは下の図の通りです。平時は一般保証だけなのが、セーフティネット保証や危機関連保証で枠が増えています。
無担保:8,000万円以内
※内、無担保無保証人保証 2,000万円以内
無担保保証:8,000万円以内
※内、無担保無保証人保証 2,000万円以内
無担保保証 8,000万円以内
※内、無担保無保証人保証 2,000万円以内
なお、「セーフティネット保証4号」「セーフティネット保証5号」「危機関連保証」と制度がいくつもあるのは、それぞれ根拠となる法律が異なることと、今回の新型コロナウイルス感染症の影響が大きいのでいろいろな制度が次々に発動されているからです。
信用保証付き融資の知っておきたいこと
実際の保証額は事業者により異なる
事業者ごとの保証額は信用保証協会の審査により決まります。2億8千万円は保証枠ごとの上限という意味です。
信用保証協会に直接申し込むわけではない
実際に融資をするのは銀行や信用金庫などの民間金融機関です。あくまでも信用保証協会は保証人になる立場です。基本的に事業者が信用保証協会に直接保証の申込みなどのやり取りをすることはありません。融資を申し込む民間の金融機関を通じて信用保証協会に審査が依頼されます。
信用保証料がかかる
信用保証協会に保証人になってもらう手数料として保証料がかかります。
保証料率は、セーフティネット4号・5号は概ね1%以内、危機関連保証は概ね0.8%以内です(都道府県の保証協会によって異なります)。
保証料は融資が実行されるときに支払います。※融資額から差し引かれて入金されます。
※5月1日より開始された制度など、制度融資によっては一定の要件を満たすと信用保証料が減免されます。
日本政策金融公庫の融資と信用保証付き融資は関係ない
日本政策金融公庫の融資と信用保証付きは関係ありません。民間金融機関から融資を受けるときに信用保証付きを使います。
新型コロナ関連の信用保証制度ごとの概要
各制度に共通すること
セーフティネット保証4号・セーフティネット保証5号・危機関連保証を利用するには、まず事業所のある市区町村長の認定を受ける必要があります。
【追記】※5月1日からの民間金融機関の実質無利子・信用保証料減免の融資制度に伴い、民間金融機関がワンストップで対応をすることが示されています。これから認定を受けたい事業者は、先に取引のある金融機関にご相談ください。
認定の申請~融資までの流れ
- 市区町村長に認定申請をして認定書を受け取る
- 金融機関に信用保証付き融資の申込み(認定書を持参)
- 金融機関から信用保証協会に保証の申込み
- 信用保証協会が保証を承諾
- 金融機関から事業者に融資の実行
認定申請について
市区町村長の認定の申請をすると認定書が発行されます。認定に必要な書類は自治体のウェブサイトに掲載されています(※書類は制度ごとに異なります)。「自治体名+セーフティネット保証4号または5号」「自治体名+危機関連保証」でGoogle検索してください。認定書の発行までにかかる時間は即日~1週間程度で自治体により異なります。
保証制度を使わない可能性があっても認定申請してOK
認定にはいくつか書類などを用意する必要があり少し手間がかかります。また、自治体によっては申請から認定書の発行までのタイムラグもあります。
認定書がないと金融機関への申込みもできません。保証付き融資を受ける可能性がある事業者さんは認定の申請は早く済ませてください。結果的に使わないことになっても構いません。令和2年1月29日~7月31日に受けた認定は、令和2年8月31日まで有効になります。
認定要件の緩和について
3月13日より、セーフティーネット4号・セーフティーネット5号・危機関連保証のいずれも認定条件が緩和されました。対象者や要件は次の通りです。
対象者
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、経営の安定に支障を生じている次の事業者さんです。
- 業歴3ヶ月以上1年1ヶ月未満の事業者
- 前年以降の店舗増加等によって、単純な売上高等の前年比較では認定が困難な事業者
緩和後の要件
次の1~3のいずれかにあてはまることが要件になります。
1.最近1ヶ月の売上高等と最近1ヶ月を含む最近3ヶ月間の平均売上高等を比較
2.最近1ヶ月の売上高等と令和元年12月の売上高等を比較+その後2ヶ月間(見込み)を含む3ヶ月の売上高等と令和元年12月の売上高等の3倍を比較
3.最近1ヶ月の売上高等と令和元年10~12月の平均売上高等を比較+その後2ヶ月間(見込み)を含む3ヶ月の売上高等と令和元年10~12月の3ヶ月を比較
今回の措置により、業歴が1年1ヶ月未満の事業者さん、最近新店舗をオープンした等で昨対比の売上では要件を満たさない事業者さんも、今回の緩和により対象となる可能性があります。
文字だけの説明でわかりにくいときは、売上の数値を入力するとどの制度が使えるのかわかる計算フォームをご用意しました。必要に応じてご利用ください。
新型コロナ関連の融資のうち、日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、民間金融機関の利子減免も融資制度を利用するための条件となる「セーフティネット保証4号」「セーフティネット保証5号」「危機関連保証」の売上減少要件を満たしているかを制度ごとに判定できる簡易的な計算フォームを作成しました。
セーフティネット保証4号
突発的な災害により経営の安定に支障を生じている事業者への資金供給の円滑化を図るため、信用保証協会が通常の保証限度額とは別枠で借入債務の100%を保証する制度です。
近年では、熊本地震や豪雨被害が対象になっています。本来は地域が限定される制度ですが、今回の新型コロナウイルス感染症関連では47都道府県のすべての市区町村が指定されています。
保証内容
保証割合:100%保証限度額:
無担保保証 8,000万円以内
※内、無担保無保証人保証 2,000万円以内
※セーフティネット5号と併用も可能ですが保証限度額は合算となります。
対象者
セーフティネット4号の認定を受けるには、下記の両方に該当する必要があります。
- 認定を受けたい地域で1年以上継続して事業を行っている。
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、最近1か月の売上高が前年同月に比べて20%以上減少。さらに、その後2か月を含む3か月間の売上が前年同期に比べて20%以上減少することが見込まれる。
セーフティネット保証5号
全国的に業況の悪化している業種に属していて、経営の安定に支障を生じている事業者への資金供給の円滑化を図るため、信用保証協会が通常の保証限度額とは別枠で80%保証を行う制度です。
対象者
セーフティネット5号の認定を受けるには、指定業種の事業を営んでいることが前提です。
その上で、下記のいずれかに該当する必要があります。
- 最近3か月間の売上高が前年同期比5%以上減少している(※)
- 製品等原価のうち20%を占める原油等の仕入価格が20%以上上昇しているが製品等価格に転嫁できていない
※時限的な運用緩和として、2月以降直近3ヶ月の売上高が算出可能となるまでは、直近の売上高等の減少と売上高見込みを含む3ヶ月間の売上高等の減少でも可。(例)2月の売上高実績と3月・4月の売上高見込み
指定業種
セーフティネット保証5号は特定の業種を対象にした制度ですが、民間金融機関の実質無利子・信用保証料減免の融資制度の要件となること考慮して全業種が対象になりました。
危機関連保証
大規模な経済危機や災害等が起きたときに、全国のほとんどの業種を対象として、信用保証協会が通常の保証限度額及びセーフティネット保証の保証限度額とは別枠で借入債務の100%を保証する制度です。今回が初めての発動になります。
保証内容
保証割合:100%保証限度額:
無担保保証 8,000万円以内
※内、無担保無保証人保証 2,000万円以内
※セーフティネット4号・5号とさらに別枠になります。
対象者
危機関連保証の認定を受けるには、下記の両方に該当する必要があります。
- 金融取引に支障を来しており、金融取引の正常化を図るために資金調達を必要としている。
- 新型コロナウイルス感染症に起因して、原則として、最近1か月間の売上高等が前年同月比で15%以上減少しており、かつ、その後2か月間を含む3か月間の売上高等が前年同期比で15%以上減少することが見込まれる。
都道府県ごとの制度融資もある
民間金融機関の融資が当初3年間・融資額3000万円まで実質無利子となる制度は「制度融資」の仕組みを利用していることを説明しました。これは国が主導するものです。
制度融資には種類があって、都道府県が主導する新型コロナ関連の制度融資もあります。例えば静岡県の場合は、国が主体の制度融資は「国連携新型コロナウイルス感染症対応貸付」、静岡県が主体の制度融資は「経済変動対策貸付(新型コロナウイルス感染症対応枠)」という名称です。※名称は都道府県により異なります。
国連携新型コロナウイルス感染症対応貸付 | 経済変動対策貸付(新型コロナウイルス感染症対応枠) | |
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融資対象者 |
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融資限度額 | 4,000万円 | 8,000万円 |
融資利率 | 融資後3年間は0.00%(※セーフティネット保証制度により異なる)、4年目以降は1.90% | 1.3%~1.4%(セーフティネット保証制度により異なる)、融資期間を通じて同じ。 ※市や町の利子補給制度により一定期間は実質無利子になる場合あり |
融資期間 | 10年以内 | 10年以内 |
据置機関 | 5年以内 | 設備資金は3年以内、運転資金は2年以内 |
信用保証料 | 0.00~0.425%(セーフティネット保証制度により異なる) | 0.58%~0.80%(セーフティネット保証制度により異なる) |
取扱期間 | 令和2年5月1日~12月31日 | 令和2年4月28日~7月31日 |
最初の相談先 | 取引のある金融機関。 |
このように条件が異なりますが、基本的には国が主導の制度融資の方が利子などの条件が良くなります。国が主体の制度融資の金額では足りないときに、都道府県の制度融資も使う場合などが考えられます。
いずれにしても相談窓口は取引のある金融機関です。事業者の状況に応じて有利な制度を提案してもらえると思いますが、余裕があれば事前に都道府県のホームページを確認しておいてください。
まとめ
- 民間の金融機関でも政府系金融機関のような実質無利子の期間がある融資を受けられる
- セーフティネット保証制度の認定や都道府県への書類提出も金融機関がワンストップでサポートする
- 民間の金融機関も混み合うことが予想されるので早めに相談を!